地を這うもの

企画展「火山列島・日本」展 茨城県自然博物館に行く

火山について学べる企画展、どこかでやらないかなと思っていたところ茨城県自然博物館で開催されたと知り早速行ってきた。

茨城県自然博物館は菅生沼という茨城県坂東市と常総市との間にある沼の西に隣接する県立博物館で、公式websiteでも「ミュージアムパーク」と称しているように広い公園を敷地内に持つ。屋内の展示と野外の自然を利用した展示も魅力でリピーター率の高い博物館ということだ。私自身もこれで3回目。

企画展「火山列島日本」について

火山噴火のニュースが流れると、ああまたと思う今日このごろ、企画展のタイトルは「火山列島日本(Volcanic Activities on the Islands of Japan)」。
本企画展は最近の国内の噴火や過去の大噴火、昭和新山の研究者三松正夫、富士山の噴火、火山の噴出物に関する解説、実際の噴火を動画やスライド映像で大迫力で紹介し、火山の驚異と防災、火山からの恩恵もあるよとプラスの面、そして博物館の学術研究である生態系の回復についての調査報告を展示解説している。
順路をたどっていくと火山の用語や基礎、噴火の歴史を学ぶことができる。岩石や噴出物の名前、溶岩の粘性など、ひととおり解説されていて、わたしのような入門者にもまとめて学べる、自分が望んだ通りのもの。
噴火の映像が大画面で大迫力。思わずおおすげーと声に出てしまう。火山の美しい風景もふんだんに展示されている。

各地の火山とその噴出物

エントランスの噴火の動画を経て、イントロダクションとして火山のできる3つの場所と、その溶岩。実物の噴出物に触れる。
火山の噴出物とそれを噴出した火山の画像パネルとともに展示。おなじみの観光地の火山が多く、岩石標本とその起源となる火山の風光明媚な姿に出会える。
気象庁が指定している111の火山と、特に監視の必要な50の火山。





富士山

歴史に記録された貞観噴火、延暦噴火、宝永噴火を噴出物、地層の剥ぎ取り標本、宝永噴火の絵図などとともに解説。
白い富士山模型に上方から投影(プロジェクトマッピングというらしい)して各時代の噴火と溶岩流の流れや堰止め湖などを時間的変化で表示解説。
自動で切り換わっていくので、理解するのにずっと見ていないとだめな気が。
宝永噴火の江戸時代の絵図3枚、宝永噴火の時間的経過が描かれている。宝永テフラのはぎ取り標本。火山灰。
ほんとは富士山の噴火だけでも企画展ができてしまうんだろうな(過去の企画展に富士山の企画展もあったようだ)。

昭和新山の成長を記録し続けた、三松正夫

有珠郡壮瞥町の郵便局長だった三松正夫は洞爺湖で頻発す地震を噴火の予兆と考え観察に務める。郵便局の屋舎の間にテグスを張って基準とした溶岩ドームの成長を1943年から噴火の収束する1945年までスケッチした。戦後の1948年、オスローの万国火山会議に提出し、その緻密さに驚きを持って迎えられ、チャートをミマツダイヤグラムと呼ぶことを全会一致で可決した。
展示はスケッチと実際使用した道具、噴火中の様子を描いた絵図。絵図は氏がもともと画家志望だったそうで絵画としても評価されているという。

火山噴火を解剖する

火山についての基礎をこのコーナーで学べる。溶岩の種類、噴出物の名称、噴火のタイプ。
マグマの性質の違いや噴火規模の分類。ハワイ式、ストロンボリ式、ブルカノ式、プリニー式、ウルトラプリニー式。
大型ディスプレーに画像で解説。粘性が低いと穏やかな噴火でハワイ式、ストロンボリ式噴火になり粘性が高いと爆発的なブルカノ式噴火となる。プリニー式噴火は火砕流を伴う大規模噴火となる。
かんらん岩は上部マントル、海洋プレートの沈み込みで水がマントルに供給されると融点が下がってかんらん岩からマグマを生ずる。
溶岩は珪酸成分が少なく温度が高いと粘性が低く流れやすい溶岩となり、粘性の低い順に玄武岩、安山岩、デイサイト、流紋岩に区分される。安山岩質の溶岩は粘性がやや高いため爆発的な噴火をする。デイサイトな流れにくいため溶岩ドームをつくる。

溶岩ににせたオレンジの流体で溶岩の粘性を実感できる。玄武岩溶岩はサラサラよく流れ、安山岩溶岩はドロッとしてゆっくり流れる。流紋岩溶岩はべったり張り付いてあまり流れない。

玄武岩質溶岩安山岩質溶岩流紋岩質溶岩

火山弾と噴石。火山弾は溶岩などが石となって飛んでくるもの、噴石はもとそこにあった石が噴火で飛ばされて飛んできたもの。軽石、スコリアはマグマのかけらで、軽石は白くて気泡があり水に浮く、スコリアは黒くて鉄分を含み水に浮かない。
テフラとは火山の噴出物のうち、溶岩と火山ガスを除いた、火山灰、軽石・スコリア、火砕流堆積物、火砕サージ堆積物。展示物の説明中、テフラとあったらこれらの噴出物ということだ。
ペレの毛、ペレの涙は噴出物のうちガラス成分が固まったもの。ペレの毛は繊維状でほんとに毛の束みたい。
溶岩の見かけと内部構造からパホイホイ溶岩、アア溶岩、塊状溶岩に分けられる。前の2つはハワイ語起源の名称。
パホイホイとは表面がなめらかなという意味で袋状や縄状の構造をつくる。
アア溶岩は長距離を流れて温度が下がってきて固まりつつある溶岩。とげとげしいという意味。
塊状溶岩は安山岩質溶岩など粘性が高い溶岩が流れるときに見られ、割れて表面がなめらかなブロック状になる。
玄武岩質溶岩が水中で噴出すると枕状溶岩となる。

ゼノリス(捕獲岩)。マグマの中にいろいろな鉱物を捕獲して噴火のときに噴出される。ダイヤモンドはマグマの中でできた結晶が溶岩とともに地表に現れたもの。キンバーライト溶岩。

関東ローム層は周辺火山のテフラの堆積したもので、日本上空の西風を受けて西の遠方の火山噴火のより供給された。関東平野の広大な畑は関東ローム層が土壌化してできた黒ボク土。
各地のテフラを採集することでもととなった火山が特定される。赤城鹿沼テフラの到達領域と地層のはぎ取り標本。火山から遠くなるにつれて地層が薄くなっていく様子をはぎ取り標本と地図で展示。
関東ローム層のなかには関東より遠く離れた火山のテフラもみられる。阿蘇4テフラ(阿蘇カルデラ約9万年前)姶良丹沢テフラ(姶良カルデラ約2万9千年前)などで、広域テフラと呼ばれその地層の年代知る鍵層として利用される。

火山の驚異

火山災害の様子を噴火の画像も混じえて次から次へと・・・。磐梯山の山体崩壊、木曽御嶽山、雲仙普賢岳、草津白根山、浅間山天明噴火と蒲原岩屑雪崩、榛名山麓金井東裏遺跡、ポンペイ、十勝岳融雪泥流、セントヘレンズ火山、ピナツボ火山。歴史を変えるスーパーボルケーノ、縄文文化を飲み込んだ鬼界カルデラ。地球上には地球の生命の歴史を変えたといわれる巨大な火山集合体があり古生代の大量絶滅の原因と考えられている。
災害と爪痕、火山噴火の遺物。。
火砕流は噴煙が高密度になって上昇できなくなり多方向に流れる、あるいは溶岩ドームの崩落により斜面を流れ下る現象。その本体は灼熱の溶岩の破片や火山灰が気体とともに一気に流れる。火砕サージは高温の気体と火山灰で流動性が高く斜面も駆け上がる。日本ではその危険性が一般に知られておらず雲仙普賢岳噴火の火砕流災害で多くの犠牲者を出した。
あのポンペイの遺跡が火砕流とによるものとのこと。大規模な火砕流は街を人のみなのか。

火山からの恵み

温泉、金鉱床、硫黄、火山が作り出した風光明媚な景観、地熱発電。
温泉のお湯のサンプルが温泉の所在地の地図とともに並べてある。アレの中身は本当に温泉のお湯なのか?
マグマ中の微量の金銀銅が熱水に混じり熱水岩石割れ目や断層を通るとき温度の低下とともに金が沈殿する。これらが自然金や自然金と自然銀の混合として産出する。
噴気孔から取れる硫黄は昔から日本の産物として採集されてきた。
火山の熱利用の地熱発電。
火山により生じた風光明媚な景観。これも火山の恩恵。ディスプレイでスライド映像。

生態系の回復

三宅島の噴火後の生態系の回復を筑波大学の上条隆志協力の下、茨城自然博物館が植生の遷移を調査し1/67の精密模型で植生の遷移を解説している。各段階の植物の標本。この辺はじっくり見たいところ。

企画展「火山列島・日本」図録

今回の企画展の図録。会場で見てデジカメで撮っておいても、すぐ忘れてしまうので、図録で再体験。会場は動画静止画がふんだんに使用されていたが、図録はカラーで会場とはまた異なる画像も掲載。解説もより詳しいものとなっている。¥600、38ページ。

企画展「火山列島日本」を見て

地学地理の本、登山者向けの山の景観や山の自然について書かれた本に火山や地層岩石について出てくるが、岩石名前や火山関連の話でよくつまづく。岩石の名前わかんない状態だったので、火山の基礎を学べる企画展特別展がどこかで開催されないかなとずっと思っていて、とうとう本企画展に出会うことができた。撮ってきた画像と、この図録を読みながら書いているので、会場の構成と少し違ってるかもしれない。展示物の所蔵が他の関東の博物館で、企画展は展示物を融通しあっていることが多いなと最近になって気づいたが、本企画展も科博や地質標本館などの標本も多く見られた。展示物を各博物館から借りてくるのも大変な労力だろうと感じる。各博物館にも火山に関する常設展示もあったりするので今後とも火山について学んでいきたい。

博物館名 茨城県自然博物館
企画展・特別展名称 第72回企画展「火山列島日本」
開催期間 2018年7月7日~2018年9月17日
料金 740円(大人、企画展開催時)
音声ガイド なし
図録 600円
訪館日 2018年7月10日